ショートストーリー/これがDXの現実なのか!③

ショートストーリー/これがDXの現実なのか!③

第3話/日ごとに高まる社員の不満。そしてついに予想外の結果が 

一抹の不安を抱えながらも、翌日から、Aさんは1カ月後の本格導入に間に合うよう、社員の机を1台1台まわりながら、新システム運用のためのパソコンの設定に飛び回ることになった。1週間後、ようやく一通りの作業を終え、システムの試験運用を始めた矢先、Aさんは、新システムの説明を受けた社員からの問い合わせに追われることとなる。

しかも質問の内容はどれもほぼ同じ内容で「以前の操作の仕方と違うので分かりにくい」、「入力内容が細かすぎて仕事の負担になる」というものだった。操作の違いやシステム導入の意義についても事前にしっかり伝えたはずだったのに、「どうして今さら」という思いがこみ上げてくる。ただ、同様の質問は日を追うごとに増えていった。

社員の対応に振り回されながらも本格運用までの準備を進めていたAさんに、突然社長から呼び出しがかかった。社長室のドアを開け中に入ったAさんに社長は「今回の新システムの導入はしばらく延期しようと思う」と告げた。

予想外の言葉にしばらく返事ができずにいるAさんに社長は「新システムの評判が良くない。担当部長からも、できれば今まで使っていたシステムをこれからも使いたいと言ってきた」と。

Aさんはようやく事態の真相を飲み込むことができた。同業他社との競合に打ち勝つための切り札として、会社のDX化を進めようとしていた社長が、予想以上の社員たちの反発に合い、当初の目論見を断念せざる得ない事態に至ったのだと。

企業の今後にどれほど役立つシステムであっても、それを使いこなすために時間と手間をとられることは、「ただ面倒な作業が増えるだけ」。日々の業務をこなすことに必死な社員にとっては、これが素直な本音だった。今まで慣れていたやり方で十分仕事をこなせていた彼らにとって、新システムは「単に仕事の負担が増えるだけのもの」と映っていた。

そうした現場の思いを十分に理解しないまま走り出した新システム導入プロジェクトは、こうして無期限の中止、事実上の失敗に終わる結果となった。